事業を継続し続ける中で経営者であるならば、いずれかのタイミングで事業承継を実施するのかを検討する機会に直面するでしょう。
事業承継のタイミングを逃してしまうと、円滑に実施できないばかりか思ったように継承出来なくなる事も考えられます。
ここでは、事業承継を実施するタイミングや、事業承継する際に検討するべき6つのポイントについて解説します。
事業承継とは
事業継承とは、会社の経営者が会社の経営権や運営に伴い蓄積されたノウハウなどの経営資源を後継者に引き継ぐことを指します。
具体的に事業承継で引き継がれる要素としては、社長の役割とその企業の経営権である「経営権の承継」、企業の経営理念や信用力の他に企業の技術的ノウハウや人材人脈である「経営資源の継承」、自社株や企業が持つ土地や不動産及び個人資産などの「物的資産の継承」などが挙げられます。
近年では、日本国内で運営される企業の99%が中小企業で占めると言われる中で、高齢化や跡取り不足などが要因で、後継者不足になり廃業を余儀なくされるケースが増加しています。
こうした背景の中で、事業承継の重要性が再度高まっている現状となっています。
引き継ぎ先により変わる事業承継の種類
事業承継は、事業を引き継ぐ先によって親族内承継、従業員承継、事業承継型M&Aに分類されます。
それぞれの特徴は次のようです。
親族内承継
親族内承継とは、現経営者の親族に承継することを指します。
身内に事業を譲り渡すために、心情的にもスムーズな移行ができることや、比較的長期間の準備がしやすい特徴があります。
相続により株式や財産の後継者移転が可能になるので、承継する際のコストも抑えることができます。
従業員承継
従業員承継とは、親族以外の従業員に承継することを指します。
能力が高い人材を、次のリーダーに迎えたいと考えている場合に利用されます。
一般的には、経営者の右腕として長期間勤めてきた人材を登用することが多く、今までの企業の経営方針を理解した経営が期待できます。
また、社外からのヘッドハンティングなど広範囲に渡って後継者候補を選ぶことができます。
事業承継型M&A
事業承継型M&Aとは、M&Aの手法を用いて事業を売却して新たな後継者に事業を継続させることを指します。
親族や社内に後継者がいない場合になど、従業員承継よりも更に広範囲に候補者を探すことができます。
事業承継型M&Aを利用した現経営者は、ご自身の会社の事業を売却することになるので売却した利益を得ることができます。
事業承継の最適なタイミング
事業継承を行う際には、最適なタイミングを見計らって行動する必要があります。
具体的なタイミングとしては、以下のような時期が最適とされます。
企業を託せる若い後継者がいる
事業承継するためには、前提として企業を託すのに適した後継者がいるということが必須です。
また、事業承継する際の適任者としては、年齢が30代後半から40代前半が良いとされます。
これは、事業を承継した後継者がすぐに職務を全うできれば良いですが、経営の実情は承継して立場が変わった状態での経験を積まないと分からないことが多いです。
そのために、人材育成の面でも若いうちに承継すると後継者を育てることができるので良いでしょう。
後継者の覚悟と能力が整った際
後継者が社内にいるので、将来不安になることはないと思われがちですが、実際に後継者となる方の覚悟や会社を継ぐ能力があるのかを見極めることが肝心です。
後継者であると指名されていても、本人の自覚がない場合や不安が大きい場合には、その重積に耐えることができず問題が発生することが多々あります。
会社を経営するまでは、ご自身の予算に対する売上や職責に伴う範囲を管理することが日々の仕事内容になりますが、経営に携わると従業員の生活を守らなくてはなりません。
そして更にその先には、企業として社会にどれだけ貢献できるかなども考える必要があります。
また、後継者が順調に育ち会社の経営を任せることができる状態に育ったかの見極めも大切です。
事業を承継した後は、会社のトップとして立ち振る舞う必要があります。
能力が全く伴っていない状態で事業承継すると、会社内での不安が高まる恐れや、得意先や仕入れ先などからの与信不安などにも繋がります。
会社の経営が安定している状態
事業承継する際には、会社の経営状態が安定している状態が望ましいとされます。
経営が安定していることで、現在の経営者の求心力を保ったまま事業承継を行うことができ、事業承継後のトラブルが発生しにくくなります。
事業承継することで社内外からの不安が高まるのはつきものですが、経営が安定した状態での事業承継を行うことで、不安定になった場合からのリカバリーも容易に行うことができるようになります。
経営者が還暦を迎える前
一般的に経営者の年齢が高齢になればなるほどに、会社の増収率は下がると言われます。
そのために、多くの企業では70歳までに経営者は引退する傾向にあります。
現経営者は、事業承継を行った後すぐにその企業を離れるわけではなく、引き継ぎ事項を滞りなく終わらせて後継者を育てる必要もあります。
その為の期間として、約5年から10年程度長期での猶予期間が必要になります。
後継者を育てる期間を考慮した際に、還暦前で事業承継を進めると安心してバトンタッチを行うことができるでしょう。
事業承継を成功させる為の6つのポイント
事業承継を成功させるためには、前述で解説したタイミングと合わせて次のようなポイントに着目する必要があります。
早めに後継者探しに着手して事業承継計画書を作成する
事業承継は、前述のように一般的に数年から10年近くの期間を要するとされます。
そのために、早めに後継者探しを行うことが重要になります。
そして事業承継を着実に取り進めるために、事業承継計画書の作成する必要があります。
事業承継計画とは
事業承継計画とは、企業の中長期経営計画に事業承継の時期や承継に伴う課題のほか、承継を行う際に実行する対策などを盛り込んだ計画のことを指します。
経営者が、後継者や親族等と共に取引先やその従業員との関係性を考慮して計画を策定していきます。
一般的に事業承継計画では、現状を把握した後に後継者や承継の方法などを検討していきます。
事業承継計画書が必要な理由
事業承継計画書が必要な理由としては、現経営と後継者の認識を共有するためや、親族及び従業員間でのトラブルを防ぐためのほかに、承継することに対して取引先や金融機関の理解を得る為などが挙げられます。
事業承継計画書を作成すると、後から視覚的に内容を確認することができるので安心だと言えるでしょう。
「事業承継マニュアル」や「事業承継ガイドライン」を活用する
「事業承継マニュアル」や「事業承継ガイドライン」とは、中小企業庁が公表した中小企業及び小規模事業者が円滑に事業承継できる手続きを記載した書面のことを指します。
「事業承継マニュアル」は、「事業承継ガイドライン」の内容を基に作成されたものなので、内容的には同様の内容とありますが、図表や絵を多用してある点が視覚的に理解しやすい内容になっています。
当該マニュアルやガイドラインでは、事業承継の重要性や事業承継に伴う準備の進め方、事業承継の類型ごとの課題のほかに事業承継円滑化に資する手法など様々な知識を習得することが可能なので、事前にチェックすることで経営者として事業承継への意識を高めることができます。
承継に掛かる費用削減のために事業承継税制を活用する
事業承継税制とは、事業承継の際に多額の贈与税や相続税が発生すると経営が悪化するので、中小企業や個人事業主を守り事業継承が困難になることを解消する目的として創設された制度のことを指します。
事業承継制度を利用することで、後継者が引き継ぐ会社の株式を生前贈与する際や相続で取得した際に、相続税や贈与税が一定期間猶予されたり免除を受けることができます。
また、事業承継税制の一般措置では最大で総株式数の3分の2までが納税が猶予されますが、一定の要件を満たすことで納税猶予割合が100%となります。
そして最も大きな利点としては、後継者への贈与税や相続税が発生しない点にあります。
これは事業が継続する限り、次世代に譲り渡す際に税が掛からないことを意味するので、負担を減らして事業承継を行うことができます。
事業承継の専門家のサポートを受ける
事業承継を行う際には、制度や手続きの複雑さや事業承継に伴うトラブルの発生に対するリスク回避、そして補助金の活用など法律、財務、税務など多方面に幅広い知識が必要になります。
そのため、各種の専門家からのサポートを受けると良いでしょう。
具体的には、法的なサポートとして弁護士、税理士、司法書士、包括的な支援としてはコンサルティング会社、M&A仲介業者、その他の支援期間として事業継承士、金融機関などのサポートを受けると良いでしょう。
事業承継を行う際に注意する点とは
事業承継は、中小企業の経営者として何度も経験することではありません。
そのために、事前に注意点を押さえてトラブルなどが発生しないように準備しておく必要があります。
事業承継を行う際の注意点としては以下のようなことがあります。
遺言書の作成や生前贈与で相続争いを防ぐ
親族間で事業承継を行う際には、相続の際にトラブルにならないよう事前に遺言書の作成や生前贈与で経営方針を明確にしておくと良いでしょう。
現時点では元気な状態でも、急病や急逝で経営の存続ができなくなる可能性もあります。
自分の意思では避けられないことが発生する前に、承継を見据えた準備は必要です。
具体的な遺言書の種類としては、ご自身で作成する自筆証書遺言、公証人に作成してもらう公正証書遺言、公証役場で遺言書の存在を認証してもらう秘密証書遺言などの種類があります。
事業承継できなかった場合のリスクを考える
前述にもあった遺言書や生前相続などで後継者を決めないまま倒れてしまうようなことがあると、最悪の場合では事業承継できずに廃業するリスクなどがあります。
廃業の際には、会社の設備の廃棄や不動産を所持している場合などではその処分などもあります。
また、従業員には退職金を支払う必要もあり、短期間に大きなコストが必要になります。
様々な要因が重なると廃業コストが1,000万円を超える場合もあります。
会社の資産だけで対応できない場合には、個人の資産を売却して対応するケースなども考えられます。
事業承継が思ったようにできない場合には、大きな負債を背負ってしまう恐れがあるので十分に注意が必要です。
まとめ
事業承継についてや事業承継を実施するタイミング、そして承継する際に検討するべきポイントについて解説しました。
事業承継を行うタイミングは、会社の経営状態にもよりますが後継者の教育も考慮して現経営者が60歳になるまでに行うことが大切です。
事前に「事業承継マニュアル」や「事業承継ガイドライン」を活用して、事業承継への知識を深めて取り組むとトラブルが少なくなるでしょう。
事業承継を実行する際には、最低でも数年から10年の期間を要するとされますので、事業承継計画書を作り込み計画を持って取り組むことが重要です。
事業承継をおこなう際には、専門家の力が不可欠になるので信頼できるパートナーを見つけて経営者にとって最適な選択をとると良いでしょう。