デューデリジェンスとは、M&Aで契約をする前に行われる対象企業のリスクやリターンを評価する専門的なプロセスです。
この調査によって、隠れた問題やリスクを回避し、正確な判断を下すための基礎情報を得ることができます。
ここでは、デューデリジェンスの基本的な種類や方法、失敗しないための重要なチェック項目を紹介します。
Contents
デューデリジェンス(Due Diligence:DD)とは
企業がM&Aをする際や投資家が投資をする際に、対象企業*の状況・法的問題・営業活動などを多角的に評価し、企業価値を正確に評価するための調査です。
英語で「Due Diligence」と記述しますが、「Due=当然の」「Diligence=義務」という意味があり、日本語では「適正評価手続き」と訳われることもあります。
*対象企業とは…M&Aや投資において調査の分析対象となる企業のこと
M&A(Mergers and Acquisitions)とは
企業が他の企業を合併、もしくは買収することです。
このプロセスは市場での企業価値を高めたり、生産ラインを拡大したり、業務効率を改善したりすることを目的としています。
合併とは
二つ以上の企業が一つの企業になることです。
合併は基本的に相互が合意して行われ、企業間での資源が統合されます。
合併によって新しい企業が誕生することもあります。
買収とは
ある企業が他の企業の株式の大部分を購入し、その企業の経営権を得ることです。
買収された企業の経営権は移動しますが、買収された企業がなくなるということではりません。
デューデリジェンスは基本的に買い手企業が売り手企業に対して行う
デューデリジェンスとは、基本的に買い手企業(買収する企業)が売り手企業(買収される企業)に対して行う調査です。
基本的に買い手企業が、買収後にリスクを負わないために行われます。
売り手企業がセルサイドデューデリジェンスをする場合もある
最近は、売り手企業が自身の企業に対して調査を行うセルサイドデューデリジェンス(セルフデューデリジェンス)を行う場合もあります。
<セルフサイドデューデリジェンスの主な目的>
- 買い手企業への売り込みがしやすくなる
- 自社への理解が深まる
このように自身の企業を売り込むために自ら調査するという企業も増えています。
デューデリジェンスの目的
M&Aや投資において重要なプロセスであるデューデリジェンスですが、一体どのような目的で行われるのでしょうか。
ここではデューデリジェンスの主な目的を紹介します。
対象企業の情報を把握する
デューデリジェンスの主な目的は対象企業の情報をあらゆる方面から集めて、対象企業について知ることです。
対象企業の価値・ビジネス取引・企業の進捗・運営上の問題などあらゆる角度から情報を調べて、今後の契約の参考にします。
M&Aのリスクを評価する
デューデリジェンスで対象企業が持っているリスク(法的リスク・経済的なリスク)などを評価し、M&Aをした場合に起こり得る問題点を考えていきます。
リターンだけでなくリスクも評価することによって、今後の計画が立てやすくなります。
対象企業の価値を評価する
対象企業の資産や真の価値を認識して、将来の収益予測や資産評価し、希望する買収価格を決定します。
M&A後の経済的な発展のためには、対象企業が持つ価値をしっかりと評価することが大切です。
対象企業との交渉のための準備をする
デューデリジェンスで得た情報を基に対象企業と交渉します。
調査でリスクが発見された場合は、対象企業との交渉で買収価格の値下げなどを提示することが可能です。
コンプライアンスを確認する
対象企業の法令遵守の問題・確認や業界の規制に従っているかなどを調査し、将来的に起こりえる法的な問題がないか確認します。
訴訟の可能性がある場合は、それに対しての事前の対策、もしくは買収自体をすべきかどうかについて考え直すきっかけとなります。
信頼性を向上させる
丁寧なデューデリジェンスが行われている企業は投資家からの信頼性が向上します。
投資家にとってしっかりと調査が行われていない企業との合併や買収はリスクとなりますが、デューデリジェンスが行われていると安全で透明性が高い企業運営がされているということを世間に示すきっかけとなります。
デューデリジェンスの費用
デューデリジェンスにかかる費用は事業の規模や調査範囲、外部の専門家に委託する数、調査内容、調査期間によって異なります。
ここでは、デューデリジェンスを外部に依頼した場合にかかる一般的な費用目安を紹介します。
プロジェクト | 費用目安 | 調査内容例 |
---|---|---|
小規模プロジェクト | 50万円~100万円 | ・簡単な法律チェック ・市場分析 ・デューデリジェンスの一部分のみ など |
中規模プロジェクト | 100万円~500万円 | ・詳細な法律チェック ・環境影響調査 ・国際市場分析 など |
大規模プロジェクト | 500万円~1000万円 | ・複雑な法律チェック ・リスクの評価 ・技術検証 など |
このように、デューデリジェンスを外部委託した場合は、依頼した範囲や内容によって大きく費用が異なることが分かります。
決して安くない費用なので、どんな企業にどのような内容の調査を依頼するかはじっくり検討する必要があります。
デューデリジェンスの種類とそれぞれの方法
デューデリジェンスはその目的や調査の方向性によってさまざまな種類に分類することができます。
ここでは、デューデリジェンスの種類とそれぞれの目的を解説していきます。
ビジネスデューデリジェンス
ビジネスデューデリジェンスとは、対象企業を買収すべきかどうかについて判断するために行う調査のことです。
競合企業の有無・事業計画・市場価値などから対象企業の市場での立ち位置を分析して買収すべきどうか判断します。
調査方法
以下の対象を調査・分析して市場価値を把握します。
- 事業計画
- 市場分析
- 競合企業
- 仕入れ先
- 製品
- 技術力
など
主な調査担当
- 外部の経営コンサルタント
SWOT分析とは
SWOT分析とは、ビジネスデューデリジェンスで重要な分析の一つで、企業やプロジェクトの戦略を決定する評価を行う際のフレームです。
以下の4要素を洗い出して分析します。
強み
企業やプロジェクトの内部的な利点を調査します。
例えば、教護と比較した際の競争順位、技術力、ブランド価値などが該当します。
弱み
企業やプロジェクトの内部的な弱点を調査します。
例えば、技術的な欠陥、人的資源の不足、企業やプロジェクトのリスクなどが該当します。
機会
企業やプロジェクトの外部環境におけるチャンスを調査します。
市場の成長、新技術の導入、法規制の変化など、企業の成長のための外部的な取り組みが該当します。
脅威
外部環境におけるリスクや競争の激化、経済的な不安定さ、新規参入企業の有無、規制の強化など、企業やプロジェクトにおける脅威となる要素を調査します。
財務デューデリジェンス
財務デューデリジェンスとは、財務的な視点からの調査のことです。
対象企業の収益力、資本、設備投資、事業計画などを分析して企業価値を算出し、対象企業に将来期待できる収益可能性やリスクを明らかにします。
調査対象
- 事業計画書
- 決算に関する資料
- 銀行に提出された資料
- 雇用に関する資料
- 不動産関係の資料
- 法務関係の資料
- 顧客
- 技術力
- 市場
- サービス
など
主な調査担当
- 監査法人
- 会計事務所
など
DCF法とは
将来のキャッシュフロー(企業のお金の出入り)を現在の価値に計算する調査方法です。
企業やプロジェクトの真の価値を算出するために行います。
<計算法>
- 将来のキャッシュフローを算出
- 企業やプロジェクトの将来のキャッシュフローを通常5年から10年の期間で推定する。
- 割引率を決定
- 現在の価値にとらえ直すための割引率を決定する。
- ターミナルバリューの計算
- 推定期間終了後に継続してキャッシュフローが発生すると仮定した計算をする。
- 現在価値の算出
- 企業とプロジェクトの現在の評価額を算出する。
純資産法とは
純資産法とは、企業の資産を現在の価値に基づいて評価し、資産総額から負債を差し引きした企業の資産価値を求めます。
この手法は、資産が多くて予測が難しい企業、不動産価値が重視される業種で用いられることが多く、解体や生産が予想される企業評価に適しています。
年買法とは
年買法とは、資産や物品などの大きな資産を一定期間で分割して購入する方法です。
この手法は、大きな資産を一度で購入するのではなく複数年に渡って分割で購入することによって、その使用期間に費用を分散するために行うこと多いです。
法務デューデリジェンス
法務デューデリジェンスとは、対象企業に対して法的な観点から行う調査のことです。
法的に事業を引き継げるか、賠償金を支払う可能性がある訴訟を抱えていないかを調査します。
調査対象
- 訴訟
- 法令遵守
- 各種契約に関する資料
- 労務管理に関する師匠
- 株式関連の資料
- 役員・社員に関する資料
- 許認可
など
主な調査担当
- 外部弁護士
人事デューデリジェンス
人事デューデリジェンスとは、対象企業の人材面からのリスクや技術力を調査することです。
人事的な視点からM&Aの課題を特定して、人事制度の違いなどによるトラブルを避ける目的で行われます。
調査対象
- 人事関係に関する資料
- 労使関係に関する資料
- 雇用関係に関する資料
- 人件費に関する資料
- 年金に関する資料
主な調査担当
- 社会保険労務士
- 人事コンサルティング会社
ITデューデリジェンス
ITデューデリジェンスとは、対象企業が利用しているITシステムやメンテナンスコストに関する調査のことです。
対象企業のセキュリティ面での課題、ITリスク、システムの効率などを調査し、IT面からの課題を検討します。
調査対象
- アプリに関する資料
- 導入しているシステムに関する資料
- インフラ
- コスト
- システム管理に関する資料
- システム管理を担当している人材
- ITセキュリティ
など
主な調査担当
- ITコンサルティング
環境デューデリジェンス
環境デューデリジェンスとは、対象企業が環境汚染をする可能性や現在環境汚染を起こしていないかについて調査の調査です。
対象企業が関連している法令を遵守しているかなどを調査します。
主な調査担当
- 外部の調査会社
税務デューデリジェンス
税務デューデリジェンスとは、対象会社の税務面からの調査のことです。
過去の申告漏れの有無などを調査し、M&A後にかかる課税についても検討します。
主な調査担当
- 税理士
その他のデューデリジェンス
上で記載したデューデリジェンス以外にも、不動産デューデリジェンス、知的財産デューデリジェンス、人権デューデリジェンスなどがあります。
デューデリジェンスの方法
ここでは、デューデリジェンスの方法を紹介します。
方針を決める
デューデリジェンスを開始する際には、まず方針を明確にすることが大切です。
方針を決めることで調査の範囲や目的が定められ、プロセス全体の効率が向上します。
また、リスク評価の基準を設定して、重点的に調査すべき項目を特定して方針決定することも大切です。
初期段階で明確な方針を決定しておくことで、スムーズに契約を進めるための基盤を作ります。
初期情報を確認する
デューデリジェンスのプロセスにおいて初期情報の確認は重要です。
初期情報で重要視すべき情報には「対象企業の報告書・過去の取引履歴・市場での評判・対象となるビジネスの現状」などが含まれます。
初期情報の確認は調査の方向性を招請するための重要なステップです。
費用の目安
デューデリジェンスを行う際の費用は、対象ビジネスの規模や複雑さによって大きく左右されます。
事前に費用の目安を設定しておくことで、プロジェクトの予算管理がしやすくなります。
また、予期せぬリスクが発生することもあるので、予備費も計画的に準備しておきましょう。
所要期間の目安
デューデリジェンにかける期間は調査範囲や対象企業の姿勢によって異なりますが、一般的には数週間から数か月必要になることが多いです。
プロジェクトのスケジュールとの調和を図り、全ての必要な情報が徹底的に収集・分析されるように計画を立てることが大切です。
会議を行う
デューデリジェンスの過程の中で、定期的な会議を行うことが大切です。
収集されたデータ・進捗状況・追加調査の必要性などを話し合うことによって、プロジェクトを成功に導きます。
定期的な会議の開催は情報共有と意思決定に必要不可欠です。
デューデリジェンスの流れ
ここでは、デューデリジェンスの流れを簡単に紹介します。
1. 調査チームの組成・調査準備
まずは、調査チームを構成して調査の準備を行います。
このステップはプロジェクト成功の基盤を作るための重要です。
プロジェクトの範囲や目的に基づいて多彩な専門知識を選びましょう。
法律・実務・財務・財務・技術・環境など各専門分野のプロフェッショナルを選びます。
2.資料の分析・聞き取り調査の実施
調査チームを発足して準備が整ったら、収集した資料の分析や聞き取り調査を行います。
調査チームは対象企業から提供された資料を丁寧に検討し、重要な情報をチェックします。
聞き取り調査では経営陣や重要パーソンへのインタビューを行うことが多いです。
3. 調査結果の検討
収集されたデータや情報を基に調査結果を検討します。
調査チーム全体での分関会議を開き、初期目標と照らし合わせて得られた情報の正確性と意義を評価します。
このようなプロセスを経て最終報告書を作成します。
この最終報告書には調査結果とそれに伴う推奨事項が含まれており、最終的な意思決定者に提案されます。
【買い手企業側】デューデリジェンスで失敗しないためのチェック項目
デューデリジェンスのプロセスを効率的かつ徹底的に行うためにチェックリストを活用しましょう。
ここでは、買い手企業側がデューデリジェンスで失敗しないためのチェック項目を紹介します。
これにより見落としを回避し、重要なポイントを確実に確認できます。
企業規模に見合った調査の実施
対象企業の規模とそれに伴うリスクを考慮してデューデリジェンスの範囲を決定しましょう。
必要以上の調査はコストがかかりすぎ、必要以下の調査ではリスクを高めます。
適正な調査項目を設定し、それに見合う詳細な調査を行うことが大切です。
適正な方法と優先順位を検討する
デューデリジェンスにはいくつかの方法がありますが、最適な方法を選択することが大切です。
全てを徹底しようとすると時間やコストがかかり過ぎるため非効率的です。
優先順位を付けて重要事項から調査しましょう。
外部委託による実施
デューデリジェンスは買い手企業が自社で行うケースもありますが、客観性に欠けることが多いため外部委託で実施する方が安全です。
ただし、外部委託でデューデリジェンスを実施する場合は自社で行うよりも費用が掛かります。
メリット・デメリットを考慮して最適な方法を選びましょう。
タイミングに注目する
デューデリジェンスはM&Aプロセスの初期段階で実施することが推奨されます。
後回しにすると予期せぬリスクが浮き彫りになる可能性が高まるため、適正なタイミングで実施することが大切です。
徹底した情報管理
デューデリジェンスでは最初に対象企業と売り手企業の両社が秘密保持契約を契約して情報の管理を行います。
その理由は、両企業(買い手企業・対象企業)にとって外部流出を避けたい情報を共有するからです。
調査で得た情報はM&A以外で使用できないように最初に制限をかけるのが一般的です。
【売り手企業側】デューデリジェンスで失敗しないためのチェック項目
ここでは、売り手企業側がデューデリジェンスで失敗しないためのチェック項目を紹介します。
対象企業に対しての誠実な情報提供
対象企業は買い手企業に対して積極的に情報を開示することが重要です。
買い手企業から要求された資料の開示や聞き取り調査だけでなく、対象企業が抱える問題やマイナス面についても伝えておくと、信頼関係を築くことができます。
協力的な態度の保持
売り手企業はデューデリジェンスのプロセスにおいて、質問に対して迅速に応答し、必要な書類やデータの提供を積極的に行うことが大切です。
データや書類や資料の提出が滞ると、調査に支障が出てM&Aの契約に対してマイナスな影響を与えるかもしれません。
売り手企業が協力的な態度で調査に協力することでM&Aの成立を早め、成功の確率を高めます。
秘密保持の遵守と個人情報の取り扱い
買い手企業に提供する情報の中には個人情報や秘密情報が含まれている場合があります。
売り手企業はこれらの情報を守るために秘密保持契約を遵守しながら行わなければなりません。
特に必要のない個人情報は開示しないなど、情報開示の範囲については慎重になりましょう。
リスクを事前に説明する
売り手企業は自社が把握しているリスクを明確に説明し、これらが現在どのように管理されているかを示す必要があります。
良好な契約を行うための基盤を作り、よりよい条件で契約締結を行いましょう。
契約交渉への準備
デューデリジェンスの結果を踏まえて、買い手企業から価格交渉や条件変更の提示がされることがあります。
売り手企業はこれらの交渉に備えて自社の強みや問題点を明確に把握し、適切な対応策を準備しておきましょう。
デューデリジェンスを行うべき人は誰?
ここではデューデリジェンスを行う人が一体誰なのかについて解説します。
外部委託する
外部委託とは、外部のコンサルタントや専門知識を持つ企業にデューデリジェンスのプロセスを委託することです。
例えば、弁護士・税理士・公認会計士など各分野の専門家に調査を依頼することによって、短い期間で深い内容まで調査することができます。
外部委託には、調査の公平性を保てるというメリットがありますが、コストがかかるというデメリットもあります。
社内で調査する
外部委託とは逆に社内で調査する場合もあります。
例えば、同じ業界の企業と取引をする場合などは、知識やノウハウがあるため自社でも調査可能なことが多いです。
社内調査にはコストを削減できるというメリットがありますが、公平性に欠けるなどのデメリットもあります。
外部委託と社内調査の両方を行う
デューデリジェンスの一部分を外部委託、後の残りを自社調査で行うという方法もあります。
自社でできる調査を自分たちで行い、専門外の分野は外部委託するという方法です。
コストを抑えながら専門性の高い調査を行うことができるため、この方法を選ぶ企業は多いです。
まとめ
デューデリジェンスは、M&Aの際に対象企業やプロジェクトのために行う多角的な調査のことです。
あらゆる視点から調査するためいくつもの種類があります。
M&Aの成功のためにはこのデューデリジェンスというプロセスが重要なため、多くの企業がある程度の期間や費用をかけて行います。
デューデリジェンスに失敗しないためのチェック項目を確認しながら、コストバランスが良い方法で行いましょう。